富裕層インバウンドの法則3「エリア毎に分解できる『富裕層インバウンド勝利の因数』をアナログに見つける」

10月下旬、シンガポールで行われたアジア最大級の旅行展示会ITB Asiaで、ある北海道のヴィラオペレーション会社のマネジメントと偶然の出会いから改めて認識したことを今回は書いてみることにしたい。その会社の社長さん曰く、「ニセコは、多くのオーストラリア人富裕層がデュアルライフの日本おける拠点としている、オーストラリア人観光客もとても多いのは事実。でも不動産投資という観点からみると、シンガポール人も多いんですよ。彼らがニセコのヴィラに投資してシンガポールの友人たちを連れて休暇にくる。この需要をもっと取り込みたくて今回シンガポールで開催されたこと商談会に出展したんですよ」。

もともと北海道はシンガポール人憧れの場所だ。現地に住んでいるとよくわかるが、年中暑い日しか経験がないと初夏や秋にかけてのわれわれ日本人が北海道のいちばんいい時期だと思う時期はもちろんのこと、雪など降って寒い時期でも多くのシンガポール人観光客北海道にはやってくる。
LCCのスクートが台湾経由でシンガポールから北海道への定期運行を始めたのは記憶に新しい。願わくばナショナルフラッグであるシンガポール航空も季節限定便だけでなく定期運航便を考えてもよさそうだ。そうすればシンガポール富裕層の北海道インバウンドはさらに魅力的な機会となっていくだろう。

当社もシンガポールに拠点を持って4年の歳月が流れるが、現地で見聞きしたことで驚いたことのひとつが「日本人が経営する北海道旅行専門の旅行代理店」をシンガポールで30年以上経営している人に出会ったことだった。

基本的にはそれまでのビジネス人生で東京から長期間離れたことがなかった私には最初はピンとこなかったが、知れば知るほどこれほど確実で妙味のあるビジネスはめずらしい、と考えるに至った。担当者が私に言ったこの一言がきっかけだった。
「シンガポール人のうち、少なくとも年間3万人は北海道に旅行するんですよ。そのマーケットを独占できれば必ず勝てる、そういう視点でビジネスを展開しているんですよね」。
数字的な確からしさはともかく「北海道専門の旅行会社がシンガポールで30年以上続いている」という事実を前にすれば、この発想は経営上確かである、それは明らかだ。北海道のヴィラオペレーション会社とシンガポールの北海道専門旅行会社に共通していることは、「顧客ターゲットを明確にし、そこに経営資源を集中すること」で、とてもシンプルなものだ。

と同時に多くの経営論者が好んで使うフレーズでもあることはおわかりいただけるだろう。要諦は言葉だけに終わらずビジネスとして実践すること、その1点につきるが、これがなかなか難しい。ほとんどの経営者が正しいと思っていても、どうしても想定ターゲットの集中には勇気がいるからだ。実際にはターゲットを集中させる=他のマーケットを捨てる、ことになるからだ。しかしながら限られた経営資源を前提に考えれば顧客ターゲットを明確に絞らねば明日はない。インバウンド関連事業者が常に考えねばならないのは、顧客ターゲットを絞りきる因数を見つける、これにつきるだろう。

「シンガポール人は平均的には10人に1人が富裕層です。我々は知らず知らずのうちに事業の10分の1は富裕層ビジネスをやっているということになるんですよ」というシンガポールの北海道専門旅行会社の一言が忘れられないのは私だけではあるまい。

もうひとつ、シンガポールでとあるパーティに参加した際のエピソードを。たまたま丸テーブルで隣り合わせになった、あるインドネシア人富裕層から、「東京にショート(注:東京都渋谷区松濤のこと)というところがあるだろう。そこにまとまった土地を探しているんだ。それをサポートしてもらえないか」という相談を受けたことがある。私が日本人だと知り最初に言ってきたのがこの言葉だ。
「私の周辺では、日本への不動産投資は渋谷区松濤に限る、という話になっている。そこにいいサブリース会社を見つければバッチリだ」と。結局この相談には乗らなかったが、時代が時代ならば、渋谷区役所や渋谷の観光協会と連携したビジネスを私も考えていただろう。同じ席のやはりインドネシア人富裕層には、「Between Roppongi St and Aoyama St(注:外苑前駅~表参道駅の青山通り沿いおよびその周辺は大規模な再開発地域となっている)ならいくらでも案件がほしい」とより玄人好みの話を持ち出す人もいた。
もう4年前の話だが、この時のシンガポール在住インドネシア人富裕層の間では、東京都心への不動産投資が大きくクローズアップされていたということになる。今もトレンドとしてはあるのだろうが、視点は別の方向に向かっているようだ。渋谷や南青山は集客力がそもそもレベルが高いので参考にならないかもしれないが、それでも、「ある時期のインドネシア人富裕層の日本への興味関心」を、渋谷区や港区の観光協会の方が当時私が座った席にいることができていれば、実需をともなうビックチャンスに変えて手にしたに違いない。

こういうことはアライアンスという言葉に振り回されることなく、自社で人を出して毎日リサーチさせるような、民間企業が常にやっている「効率的なムダ」として観光協会や自治体も予算を振り向ける時期にきているというのが正直な実感だ。この例も「想定ターゲットを絞りきる因数」を見つける、だれでも明日からできること、の例と言える。富裕層インバウンドを捉える視点の有用な考え方としておさえておきたいところだ。

このような富裕層インバウンドビジネスのヒントを皆さんで考えていく機会のひとつとして、当社ルート・アンド・パートナーズでは「富裕層インバンドビジネス研究会」を2017年1月から立ち上げることにした。多業種から多人数参加可能なコンソーシアム型の商品で料金的にも誰でも参加しやすいように設計した。欧米を中心とした海外富裕層のリサーチを繰り返しながら、外国人目線で訪日富裕層外国人を増やし消費活動を多くしてもらえるような枠組みを、皆さんと一緒に研究していきたいと考えている。富裕層インバウンドビジネス研究会については、以下のサイトを参照されたい。

http://rpartners.jp/inbound/ibk/

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