病院経費削減

平成22年度の病院運営実態調査によると、医業収益100対収支金額割合において経費は15.7%を占め、そのうち委託費は約半数の7.7%となっている。過去に担当した黒字病院と赤字病院で比較してみると、経費全体で赤字病院は黒字病院を上回っていた。

上記の数字からも言えるように、上回った経費の半数は委託費であり、委託費の管理が経費削減上、重要であると言える。

このサイトでは主として委託費の削減を図るため、実例を交えながら病院経費削減について紹介して行きます。

 

清掃費の見直しで年間1400万円を削減

委託業務は、大きく分けて2つに分類できる。

①は、清掃や滅菌業務のような業務頻度は高いが、専門性が低い業務。そのため、市場に取扱い業者が多く存在し、価格競争にさらされることが多い。

②は、医療機器保守費、院内設備保守費、システム保守費などの業務頻度は低く、専門性が高い業務。専門性が高いがゆえに、納品したメーカー又は業者に委託が決定することが多く、価格競争になり難い。

多くの病院が経費削減を始める上で、取組んでいるのは取扱業者が多く価格競争が可能な①の委託費である。
一つ例に挙げると、私が以前に担当した関東地方のA病院も、清掃業務委託費の削減に取り組んでいた。
一番多い例は、相見積や入札を通して価格交渉を行っているパターンである。

A病院も、入札制度で清掃業者を選定していた。入札制度により競争環境を作っているように見えるが、実際は思うような環境を作れていない状況であった。清掃業務は、人的サービスということもあり人員の確保などの不安要素から既存業者が強い状況にあり、さらに仕様書の曖昧さも手伝って、清掃費は適正な価格からは程遠い金額となっていた。

清掃費の適正化を行うには、まず施設の状況を把握し、それを仕様書に詳細に落とし込むことが大切である。施設内箇所の利用頻度・汚度などを把握し、日常清掃箇所や回数、そして定期清掃箇所や回数を見直し、仕様書を適正化させる。病院職員が清掃を行う箇所がある際は、業者と病院職員の境界線を明確にしておく必要がある。見積書提示や入札を行う際には、積算根拠となる内訳の提示を要求し、内訳を品目ごとに分解、さらに分解した品目ごとに市場調査を行う事が必要となる。

このような取り組みの結果、A病院は清掃費を年間6,700万円から年間5,300万円に削減できた。施設の調査や既存業者の調査が委託業者を管理し、費用を適正化するとともに経費削減を可能にしたのである。

 

空きベットを活用する

病院の経営改善の取り組みには様々なものがあるが、結果としてコスト削減につながるものも多い。例えば、空いているベッドの有効活用は、ホテルで言えば空き部屋を無くすことと同じで、稼働率が倍になればコストが1/2になったとも言える。

空きベットの有効活用の方法は様々あるが、病院内の各棟で各科混合ベッドとして使用し稼働率を上げている病院がある。各科で入院患者数は一定していないのだから、空いているベッドを共有するのは合理的なのだが、各科でテリトリー意識が強いと実行は難しい。

都心部の救急病棟では病床数が足りなく、他科のベッドを使わざるを得ない状況が多いと良く聞くが、科を超えてベッドを確保するのは難しい面もあるようだ。大病院では難しいかも知れないが、中小の病院であれば一つの理念を共有するのは、さほど難しいとは思えない。

また、予定入退院の日時は土日祝祭日でも可能とすることで、ベッドに空きがなくなるようにできる。これまで、土曜日に退院できる患者がいても翌月曜まで退院できなかったのが、土曜の午前に退院して、午後から新しい患者を受け入れられることになる。

また、退院した感所のケアを積極的に行い併設している介護老人保健施設と連携を積極的に行っている病院もある。老人であれば、一度退院してもまた入院する可能性は高いので、他の病院に入院されないようにキープしておくこともベッド稼働率を上げる。

入院患者を確保するために地域のクリニックと連携して紹介患者を増やしたり、「救急患者を断らない」など積極的に患者を受け入れることがベッド稼働率を上げ、結果として経費削減につながって行くのである。

ITを活用した連携システムでコストも削減世田谷区にある100床に満たない病院の事例です。

この病院は産婦人科として開業し高度経済成長とともに診療科目を増やし、ベット数も増床し規模を大きくしたのですが、バブル崩壊などの影響で患者数が減り、規模を大きくしたことによる人件費の増大などで経営が悪化して行きました。

病院の経営は、救急医療を積極的に受け入れることで成立していましたが、救急医療は季節による変動が激しく、安定した収入を得るためには地域のクリニックからの紹介患者数を増やすことが必要だと考えました。

また、この地域では在宅医療に積極的に取り組むクリニックや慢性医療を中心に行っている開業医は、いざという時に入院させられる急性期病院との連携を望む声が高くありました。

そこで、地域ネットワークを築くためにMRIやCT等の高額医療機器を効率的に活用して行くためにIT化を図り、画像サーバーシステムを運用して、連携する医療機関がインターネットにより紹介した患者のMRI画像などを見ることができるようにシステム構築を行っいました。

病院のMRIを入れ替える際に画像サーバーシステムを同時に構築し、院内ネット環境の整備や各科へのコンピューターの導入、膨大な量になる画像の保存スペースなどの院内インフラを整備する過程で、IT化による人員の削減などの経費削減も同時に行えました。

MRI、CT、CRなどの画像データは、撮影すると同時に画像サーバーにアップされ同時に院内と提携する医療機関で閲覧が可能になります。内視鏡や病理標本などのデータは医師が画像をアップした時点で同じように閲覧可能になります。

このようなIT化による地域ネットワークを作ることで、地域の医療機関からの紹介件数も従来の10倍に増え、経費削減の効果もあり病院の安定経営につながって行きました。

関連記事一覧

  1. ブラックボックス化するIT関連システム保守費

  2. 寝具リース・洗濯の見直しで年間260万円を削減

  3. ベット数1/3の大幅なダウンサイジングで急性期病院へと転換

  4. コピー機消耗品の見直しで年間320万円のコスト削減

  5. 防災センターの委託費見直しで年間200万円を削減