写真:(c) 金沢市
本年開催されたリオ五輪、日本は史上最多のメダル獲得数を更新し大きな盛り上がりの中終えた。次は4年後の東京五輪と、早くも国内は動き出しはじめた。社会としては訪日外国人増加のインバウンド対応、そして新国立競技場をはじめとするインフラに対する建設投資が大きく動き始めている。
この中で、筆者が注目をしているのが電柱の地中化による「無電柱化」である。訪日観光客に対して魅力ある景観を提供するために電柱の地中化は欠かせない。またそれだけではなく、防災という観点からも必要な政策だ。
実は日本は先進国の中で、無電柱化が最も遅れているということを知っているだろうか。世界の都市の中でロンドン、パリ、香港そしてベルリンなどは100%に到達しているのに対して、東京は7%にとどまっている(図1参照)。
電柱をなくし電線を地中に埋めることによって、街の景観は格段に向上する。たとえば埼玉県川越市ではそれまで電線や電柱に隠れていた蔵造りのまちなみの景観が地中化によってよみがえり、観光客数も年間150万人だったものが400万人に増加した。同様に三重県の伊勢市のおはらい町においても伝統的な木造建築の町並みがよみがえり、来訪者が10倍になった。今後、訪日外国人が増えることによって、景観の復活はさらなる経済効果を生むであろう。また、同時に土地の価値もあがるため、自治体にとっては固定資産税収入で恩恵を受ける。
さらに電柱や電線を地中化することは防災という観点からも有用である。地震や台風といった災害時に、電柱が倒れることにより救助や物資運搬などの緊急車両の通行が妨げられる。実際に阪神淡路大震災や東日本大震災そして大型台風上陸の際に実際に起こっている。これを防ぐための無電柱化が必要で、同時に地中化された電線は災害時、大幅に破損しづらくなる。
このようにメリットの多い地中化だが、なかなか進んでこなった理由は、やはり建設費そして財源の問題だ。1キロメートルあたり3億5000万円という高い費用がかかる。この問題を解消するため、ここ数年、国も税制面での後押しをしたり、電線を直接地下にうめるという低コストの手法を推進している。この低コスト方式を導入したのが石川県金沢市だ。工事を行うにはあまりにも狭い道幅でも、地上機器を民有地に設置したりそれを板塀で目隠しするなどして景観に配慮して、金沢らしい伝統的な町並みを創出した。まさに官民連携によって実現したケースといえる。無電柱化を今後一層進め、日本の都市の町並みが人を惹きつけるものにするためには、自分たちの街の景観に対するこだわりが必要といえるだろう。
文:小林 司 氏