高付加価値富裕層旅行開発の3つのヒント

訪日富裕層マーケティングを考えていく上で「各地域に存在する普遍的な事実の整理」は極めて重要な視点を提供してくれることが多い。その高付加価値化に関しても同様だ。事実を整理して上手くコミュニケーションできれば、地域のシビックプライドの醸成や企業版ふるさと納税を呼び込む政策立案にも極めて有効に働くだけでなく、移住促進、デュアルライフ促進、古民家の空き家対策、試住会、テレワーク促進、ワーケーション促進にも有益なアウトプットをもたらしてくれるだろう。ここでは現在想定可能な、しかもすぐに取り組むことができる3つの視点を整理してみたいと思う。

まず一つ目は、日本の地理に基づく話だ。
ご存知のように日本人の名前はその土地の環境に根差した名前が多い。川の西の集落だから川西さん、田んぼの中に山が見える集落だから山田さん、東の都だから東京、時の天皇の詔がでたから、など枚挙にいとまがない。これらの「事実」は、地理的考証としても非常に面白いものだが、訪日富裕層マーケティングの高付加価値化を考える上でも非常に役立つ。例えば岐阜県にある「養老の滝」は、元正天皇の行幸の際に「美泉なり。もって老を養うべし」と感じたことがきっかけでその年から元号が養老に改まったことが地名や滝名の由来だ。健康長寿やヘルスツーリズムはラグジュアリートラベルの視点でも重要なコンテンツで、歴史に学ぶ国内富裕層ビジネスオーナーのワーケーションや従業員のテレワーク推進など関係人口の増加や健康経営が叫ばれる中オリジナリティあふれるチームビルディング施策を狙うにはうってつけの逸話といえる。訪日富裕層外国人に対しては、健康長寿の方法論をもっとストーリーだてしブランド名をつけるなどネーミングを考えるとうまく進むだろう。

二つ目は、日本のビジネスの歴史に通じる話だ。
これも割と知られているが、世界最古の会社10社のうち7社は日本に現存する宮大工会社と温泉旅館会社で、日本におけるビジネスというのはごく最近注目されている1000年以上前からそもそもサステナブルなものなのだ。しかも寺社仏閣と温泉旅館は各地域の文化財に指定されているケースが非常に多い。2020年に「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」としてユネスコ無形文化遺産登録が決まった宮大工技術や左官技術などの17の技術と自社仏閣、温泉旅館をサステナブルツーリズムとして旅程化することは内外の注目を浴びるだろう。「古くから現存している」という視点で非常に面白い取り組みだと思うのは百年料亭ネットワーク の取り組みだ。非常に参考になるのでベンチマークにするとよいだろう。

三つ目は、日本人の偉人に縁のある地域の話だ。
当社の戦略子会社であるThe Sempo Project LLCでは、内閣府地方創生SDGs官民連携プラットフォームに「日本人偉人資産を活用した国内外富裕層の消費喚起による地方創生SDGsの推進」分科会<略称Project Super Japanese分科会>を運営している。ほとんどの地域にスーパージャパニーズが存在することを念頭に、地域ブランディングなどに役立てる実践的なアイデアや構築方法、マーケティング手法、などを議論する場として活用しているので、地方自治体の皆様にはぜひ参加していだきたいものとなっている。これに関しても当該地方に居住する方々の視点では当たり前すぎて気が付いていないケースが非常に多く、無料でいますぐ始めることを飛び越えて難しいことに予算を使ってしまっていることが多いと常々感じている。

さて、もうご理解いただけるだろう。これら3つは、すべて当たり前に存在している事実であり、アクティブプランに落とし込むのに10年、20年かかる話ではない。ましてや多くの予算を必要としていない。肝心なことはまず自分で事実を整理してみる、それだけのことだ。語弊があるかもしれないが小学生でもできる話の類だ。ゆっくり考える必要などそもそもなく「今そこにある事実」を組み合わせれば十分に富裕層に対する高付加価値旅行開発の一歩を踏み出すことができる。

事実の組み合わせほど強い戦略はない。ここで述べた単純な考え方は、新型コロナウィルス感染症で傷ついた国内外富裕層観光をもう一度組み立てていく上で、自治体や政府、DMOやDMCなど、あらゆる富裕層旅行産業の当事者にとって極めて重要な視点となっていくだろう。

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